ごはん食に関する医学的 栄養学的研究調査結果
研究調査一覧
ごはん量をベースにする食事の適量摂取教育の有効性に関する介入研究
女子栄養大学 栄養学部 教授 足立己幸
研究協力者:高知大学教育学部 教授 針谷順子
目的

本研究は、主食・主菜・副菜の組み合せによる食教育マニュアル構築の一貫として「お弁当箱ダイエット法」により食事の適量摂取教育を行い、食事面、健康面への効果からその有効性を明らかにするものである1)。

「お弁当箱ダイエット法」は足立、針谷らが、子どもや男性を中心に、主食・主菜・副菜とその組み合せを基礎理論に、日本人にとって身近でかつ、一食をひとかたまりに盛り合せる食具である弁当箱が、一食量の把握に有効であることを理論的・実践的に明らかにしてきた2),3),4),5)。さらに、ごはん量をベースにする食事の適量摂取教育の有効性についてこれまで20歳代女子学生を対象として教育介入を行い、食事面からその効果を検討した。その結果、ごはん量及び食事全体の量が多く(適量)なり、摂取栄養素構成や料理の組み合せがよくなる等食事内容の改善・向上につながることが確認できた。

そこで本研究では、食事の適量摂取による生活習慣病等の予防を見据えて6)「お弁当箱ダイエット法」の健康面の効果を明らかにする。具体的には1一般の生活者が日常の暮らしの食事の中で弁当箱を使って“適量でバランスがとれた食事”を簡便に、あまりストレスを感じないで実行することができるか3),4),5)、2過体重や生活習慣病の予防の目的で体重のコントロールをし、健康度を高めることができるか5),6)、また、この方法をすすめることが食生活の向上やQOLの向上につながるグループづくりに貢献できるか等5),7)について明らかにすることである。

1)研究の計画(表1−1
 

埼玉県S市の保健センターを介して食生活改善推進協議会の会員49名である(本研究は女子栄養大学倫理委員会の認可を得ている)。

(1)プログラムの内容
本プログラムは以下の内容で構成される2),3),4),5)

1 本プログラムの説明会(介入前の食事量等の調査)。
2 前実験:1日3食について普段家庭で食べている料理を用いて「お弁当箱ダイエット法」のルールに基づき料理を詰めて写真をとり、研究班メンバーが詰め方チェックとアドバイスを受ける。
3 「お弁当箱ダイエット法」の学習会への参加 1回(食習慣チェック等のアセスメントを兼ねた)(基礎レクチャー、演習−実物大料理カード使用他)
4 本実験に参加する。
日常の暮らしの中で、これまで各自の生活スタイルに合せて実施する。4日間以上3週間の間を目安として各自が実施日、日数を決めて実施する。「お弁当箱ダイエット法」を実施した日は、写真での記録をとり、スタッフへ提出する。
5 本実験の開始より1カ月後に2と同じ体格測定、生活習慣病リスク検診、食習慣チェック等。

(2)実施期間
実施期間は2月上旬の説明日から、実験1カ月後の3月下旬までとした。

(3)調査及び検査内容

1 食生態調査
日常の食物摂取状況、食行動、食行動の要因(知識、態度)等を質問紙を用い自記式記入法で実施し、調査票は研究員が確認して回収した。
2 身体計測
身長、体重、体脂肪率、ウエスト囲、ヒップ囲を測定した。
3 血液生化学的検査
朝、空腹時採血を行う(18〜20ml)。検査項目はヘマトクリット、ヘモグロビン、総コレステロール、HDL−コレステロール、中性脂肪、リポ蛋白等。
上記123はいずれも女子栄養大学の生活習慣病センターで実施した。

2)学習者の特性(表1−2
  埼玉県S市に在住する食生活改善推進協議会に属する女性49名である。食生活改善推進協議員の経験年数では10年以上が30.6%を占めた。学習した栄養等に関する知識を日常の生活での活用状況は、「非常に活用している」と「かなり活用している」を合せた割合でみると「栄養所要量」36.7%、「食品群」85.7%、「料理の量」65.3%であった。ただし「食事量」については一日の熱量で正しく認知しているものは12名24.5%で少なかった。

3)「お弁当箱ダイエット法」学習プログラムの流れ(表1−3)1),2),8),9)
 

学習プログラムはこれまで足立らが実践してきたプログラムをもとに、学習者の食事、食習慣をふまえて実践に直結する内容に工夫した。

学習プログラムの目標は1参加者自身が自分にとっての適量でバランスのよい食事(一食量)を弁当箱の容量とその面積比による主食・主菜・副菜料理の組み合せを把握することができること、2参加者が日常の食事でそれを実践するためのセルフエフィカシーを高めること、3参加者が楽しく、手軽に実践することによって、健康状態、生活の質を向上させること、である。
そのために表1-3に示した、

  • 1)2)で学習者の事前の食事及び食行動の結末をもとに食事量、料理、食材料、主食のバランスのセルフチェックをする
  • 3)自分の食生活スタイルや気持ちにぴったりの食事の適量で栄養バランスを知る
  • 4)5)で弁当箱の容量と面積比により具体的に知る
    1 必要な一食量のエネルギー(kcal)と弁当箱の容量(ml)が同じである。
    2 弁当箱を上からみた面積比で主食3:主菜1:副菜2にしっかり詰める。
    3 主材料、調理法、調味法を重ねない。
    4 おいしそうに、食べやすく詰める。
  • 6)それまで3)〜5)で学習したことを基に「実物大お弁当料理カード」7)、当日のメニュ−として準備された料理を用いて構想する
  • 7)各自の弁当箱を確認(サイズが合わなければ適切なサイズのものと取り替える)し、詰めてみる
  • 8)食べて量や味等の点から評価し、実験に用いる適切なサイズの弁当箱を確定する
説明会の風景   講習会の風景
1. スケジュール確認、日常の食習慣の記入など 1. 「そのまんまお弁当箱料理カード」で弁当の構想
2. 記録の取り方の練習 2. 適量サイズの弁当箱を決定し、弁当の計画
3. 食知識の調査資料 3. 実際に弁当箱に料理を詰める

4)解析方法
  介入前後の変化はx2検定及び対応のあるt検定により行った。
結果
1.「お弁当箱ダイエット法」の食事への影響
 
1 「お弁当箱ダイエット法」の実験状況(表2−1
学習者は申し込み時50名だが1カ月後の体格測定等に不参加の1名を除き49名である。実際の実験の実施期間(日数)は、平均9.4±6.7日、最大値29日、最小値2日であった。作った弁当数は1人当り平均15.7±13.1食で、最大値56食、最小値0食であった。なお、“主食3:主菜1:副菜2”に作った弁当の食数は1人当り平均9.5±8.0食で、最大値50食、最小値0食であった。実験は、各自が学習者「参加型」での実施で、実験期間等多様であった。

2 「弁当のある食事」の構成
学習者が「お弁当箱ダイエット法」の実験を着実に基本型“主食3:主菜1:副菜2”で行ったかをみたものである。弁当のある食事755食のうち厳密に「弁当と飲み物」で構成した食事は358食47.4%、それに果物を加えた「弁当と飲み物と果物」の食事は229食30.3%で、計77.7%となった。168食22.3%は「弁当と飲み物、果物以外に主食・主菜・副菜のいずれかがある食事」であった。
個人別にみると弁当のある食事が29日53食のうち50食94.3%を「弁当と飲み物」で実施した者が最高であった。全体の平均では「弁当と飲み物」の食事は6.4食であった。

3 弁当の主食・主菜・副菜の構成(表2−2表2−3
先の結果に続き、弁当について「主食・主菜・副菜」とその面積比から適量と主食や味等のバランスをみたものである。本学習会では、表1−3に示した通り主食3:主菜1:副菜2を基本とした。
介入前では、主食の面積比では6等分のうちの2(1/3)が最も多く、62.5%を占めた。主菜の面積比でも6等分のうちの2(1/3)が54.2%と最高率であった。従って主食2:主菜2:副菜2が最も高率で、39.6%を占めた。理想とした主食3:主菜1:副菜2は4位で12.5%にすぎなかった(表2−2)。
実験では、適量でバランスのよい食事の基本とした主食3:主菜1:副菜2の食事が65.4%と最高率となり、弁当のみをみれば全体の2/3は学習した基本を活かした内容となっていた(表2−3)。
なお主食を3すなわち面積で弁当の1/2を詰めたものは、755食のうち80.7%を占めた。

4 「お弁当箱ダイエット法」実験期間の弁当に詰められた料理の出現率(表2−4
介入前の弁当に出現する料理を表2−4に示した。
主食では39.6%に白飯が詰められて最も高く、ついで味かけごはん29.2%であった。ごはん以外のパンや麺は一部は別盛り(別の器)であったが弁当箱にも詰められていた。
主菜は弁当の60.4%に肉料理が詰められ、次いで魚介料理41.7%であった。
副菜では66.7%の弁当に緑黄色の野菜の料理が、43.8%に淡色野菜料理が詰められた。
実験中「お弁当箱ダイエット法」の弁当で主食、主菜で介入前に比べ料理の構成に差がみられた。
主食では57.5%に白飯が詰められ、約20%増加し、有意な変化となった。
主菜では介入前、肉料理が60.4%あったのに比べ、介入後では35.9%にすぎず、卵料理や牛乳・乳製品の料理もプラスされ、多様になった(p<0.05)。
副菜では介入前の構成比には差がみられなかったが、弁当の89.0%に緑黄色野菜の料理、56.7%に淡色野菜、その他の芋、きのこ、海藻料理も出現率が高まり、料理数は多様になった。
もう一品の汁や漬物では量的にも差はみられなかった。

5 介入前後の主食形態の変化(表2−5
弁当以外の食事を含め主食の形態をみた。介入前に比べ、実験中では飯料理を朝、昼、夕食のいずれでも摂る者が多くなった。従って、3食とも白飯が介入前4名が実験中9名に、2食が22名から24名となり、白飯1食は17名から10名と減少した。


6 ふだんのごはん量の変化(表2−6
ふだんの食事の食事量はしっかり1膳160gは12.2%から40.8%、逆に軽く1膳120gは46.9%と約半数を占めていた者が16.3%と激減し、有意な変化になった。
以上の結果より弁当及び弁当以外の食事で飯、白飯は一食あたりの量の面でも食事数の面でも増加した。


7 介入前後の食事(1日)の変化(表2−7
表2−7は、主食・主菜・副菜の組み合せにより料理構成から、味の面や栄養面のバランスをみたものである。
主食・主菜・副菜の揃う食事は、本対象者では介入前も高率を占め、有意な差はみられなかったが、更に増加した。1日に2食以上主食・主菜・副菜の食事がよいとされているが、介入前33名67.4%が介入直後では40名81.6%となった。

2.「お弁当箱ダイエット法」の健康習慣への影響(表3−1
 

表3−1は学習者の運動量を学習者自身が記録した歩数(歩数計)によりみたものである。実施日数は記録のあった日数であるが、全体では19±11日、最高は32日実施しており、弁当づくりに比べて実施(記録)日数が多い。歩数は8,604±4,496歩であった。最大値19,322歩、最少は4,133歩で差が大きい。

記録された歩数からみられた運動習慣(体を動かすようにしている)では「あまりしていない」が介入前には12名いたが介入直後には3名となり、「よくしている」に、また「全くしていない」人はゼロになり、有意な変化となった。


3.「お弁当箱ダイエット法」の学習者の体格の変化
 
1)介入前後の学習者の体格の変化(表4−1
体重は介入前53.1kg±7.8であったが、介入直後では52.7kg±7.8となり有意な体重の減少となった。減少した者は32名内最高値は2.6kgであった。逆に増加した者は15名で、最高値は1.2kgであった。
BMIは介入前22.9±3.1であり介入直後も22.9±3.1で変化はなかった。介入前BMIが22±10以内以上の者は17名いた。内BMI24.2以上の12名は減少、2名は変化なし、3名が増加となった。
体脂肪率は介入前30.2±5.6であり介入直後は29.4±5.5となり有意な体脂肪率の減少となった。
胴囲は介入前73.8±7.9であり介入直後は73.2±7.8に、腰囲は介入前91.2±6.4で、介入直後は90.4±6.2となり、いずれも有意な減少となった。

2)学習者の体脂肪率の変化(表4−2
「お弁当箱ダイエット法」期間内に主食3:主菜1:副菜2の弁当を作り1)、食べた食数(表2−1)、すなわち主食3:主菜1:副菜2の基本形で実験した食数と日常の生活活動状況を歩数計で記録された歩数(表3−1)から体脂肪率の増減との関係をみた。
介入前後で体脂肪率に全く変化の見られなかった者はゼロで、体脂肪率37名75.5%で、4人に3人は減少した。しかし、12名24.5%は減少しなかった。

3)学習者の血液生化学的検査の結果
血液の一般検査及び生化学的検査結果でも、いずれも基準値内ではあるが、介入前・後はヘマトクリット(血液中に占める赤血球の容積)40.3±2.9から41.6±3.2%に有意に増加し、血清血糖99.8±12.8から93.0±11.4mg/dl、総コレステロール215.4±37.7から206.1±34.2 mg/dlと有意に低下するなど好ましい変化がみられた。

4.学習者の「お弁当箱ダイエット法」のプログラムに対する評価(表5−1
 

学習者の「お弁当箱ダイエット法」のプログラムに対する評価は高く、該当する項目66に対し、「そう思う(○印)」と回答数は1人当り平均52.6±9.1であった。表5−1の最下段プログラム全体の評価をみると、「お弁当箱ダイエット法」セミナーに参加して「楽しかった」100.0%、「役に立ちそう」100.0%と全員が高い評価をした。最低値の「おもしろかったのでもっとやりたい」でも81.6%を占め全体的には楽しく学習会に参加し実践への動機づけとなったと思われる。

「ふだんの食事の栄養量について自己チェックしたこと」すなわち日常の食事の栄養量についてのセルフチェックは「おもしろかったのでもっとやりたい(知りたい)」は低値となったが、反面、それは役に立ちそうで難しい点もあったが理解しようとした項目の評価は、「自分の食生活についてセルフチェックしたこと」をはじめ、各項目で同じような高値を示し、本学習者の学習意欲が高いことがみられた。


以上、本介入結果から、ごはん量をベースにした「お弁当箱ダイエット法」により、適量摂取の教育を実施した結果、以下の効果が確認できた。

学習者の主食量は有意に多くなり、日常の食習慣の変化ばかりでなく、体を動かす等の運動習慣への意欲と連動して2/3以上の者が体重が減る等、食事面、健康面への効果が確認できた。

また、本学習者の「お弁当箱ダイエット法」学習会への参加の評価は高く、学習者自身の日常の健康生活習慣の向上、加えて本学習者の本領である食生活改善推進協議員としての活動やグループづくりにつながることが期待できた4),5),7)。

引用文献
1) 足立己幸:料理選択型栄養教育の枠組としての核料理とその構成に関する研究,民族衛生,50,70〜107,(1984)
2) 足立己幸、針谷順子:自然から食卓まで子ども自身が構想し実現する食事づくりセミナー 日本の食文化 社団法人全国食糧振興会 (1984)
3) 針谷順子、足立己幸:中高年男性の食事量の目測能力の形成−バイキングによる熱量の目測値と健康・食生活の意識の変化との関連− 日本健康教育学会誌 1、1 17-33
4) 足立己幸、針谷順子、松下佳代:食教育の経済効果に関する研究その2 栄養指導対策と経済効果に関する研究についての報告 厚生科学研究(1996)演集5 102-103 (1997)
5) 松下佳代、針谷順子、足立己幸:実物大料理カードを用いた食教育の有効性に関する介入研究 中高年男性の食態度・食行動の変化を中心に 第6回日本健康教育学会講演集
6) 厚生労働省健康事務局総務課生活習慣病対策室栄養調査係: 平成11年国民栄養調査結果の概要(抜粋)栄養学雑誌 vol.59 No.2 99-105 日本栄養改善学会(2001)
7) 武見ゆかり、中村里美、江原信江:学習援助型健康教育による中高年女性の食行動・食態度の変化-地域の健康づくりキーパーソン育成の視点からの検討 女子栄養大学紀要(女子栄養大学)29 151-161(1998)
8) 足立己幸、針谷順子:自然から食卓まで子ども自身が構想し実現する食事づくりセミナーテキスト 群羊社(2000)
9) 足立己幸、針谷順子:そのまんまお弁当料理カード 群羊社(1995)
10) 青木有紀子:内発的動機づけ測定尺度を用いた子どもの食教育の評価 〜(食事づくりセミナーの事例)〜 女子栄養大学研究科 修士論文(1995)

米ネット トップページ 研究調査一覧

制作 全国米穀協会 (National Rice Association)
このホームページに掲載の文章・写真・動画像 および音声情報の無断転載・転用を禁じます。