ごはん食に関する医学的 栄養学的研究調査結果
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米食はアレルギーをどのように予防するか
昭和大学 医学部 小児科学教室 教授 飯倉洋治
研究の目的

最近アレルギー疾患は著しく増加しており、それとともに小児科診療を通して、お子さんがひ弱になったことが指摘されてきている。その背景を考えると、昔より栄養面では問題ないのに何故かと考えさせられる。その理由として日本人の食生活変化にも問題があると考えられたため、品川区内の小学生を対象に食と健康に対するアンケート調査を両親に配付して、その背景についての検討を行った。

結果
(1)回答数
 

調査対象小学校40校中39校、11,314名中9,177名(81.1%回収率)の回答数を得た(表1)。


(2)内訳
 

質問1:学校別内訳は表1に示す。

質問2:性別は男児4,607名(50.4%)、女児4,536名(49.6%)。

質問3:持病の内アレルギー疾患と答えた割合は1,170人、12.6%を示した(図1)。また、学年別の頻度は年長児になるに従って減少傾向を示した(図2)。
アレルギー疾患のそれぞれの頻度は、図3に示すように気管支喘息(7.4%)が最も多く、次いでアトピー性皮膚炎(3.0%)、アレルギー性鼻炎(2.4%)、中耳炎(0.4%)、花粉症(0.4%)、食物アレルギー(0.2%)、副鼻腔炎(0.1%)、アレルギー性結膜炎(0.1%)、蕁麻疹(0.1%)の順に認められた。


(3)食生活に関しての質問
 

質問4:「朝食は毎日食べていますか?」に対する回答(図4)。
毎日と答えたのは全体では90%、アレルギー疾患のある生徒は91.6%、アレルギー疾患のない生徒では89.6%とアレルギー児にやや多くみられた。

毎日以外と答えた人の理由(質問5)については、図5に示すように、子どもが食べない(4.9%)および時間が無い(4.6%)を多く認めた。

質問6:「お子さんの朝食(主食)について」の回答(図6)は毎朝ごはんと答えたのが全体では26.4%、パンでは21.4%でごはんがやや多くみられた。アレルギー疾患のある生徒およびない生徒も同様で両群間に有意な差はみられなかった。

質問7の朝食(副食)においてアレルギー疾患のある生徒とない生徒との比較をするとアレルギー疾患のある生徒群(図7)に有意に多かったのはチーズで(p<0.01)、その他みそ汁、豆腐、魚(p<0.01、p<0.05)が多く、アレルギー疾患のない生徒群(図8)では卵とのりが有意に多く認められた。

質問8:「食事全般に関して、毎回毎日自分で作りますか?」(図9
全体では大体毎日作るが77.3%、時々抜けるが6.7%であった。一方、アレルギー疾患のある生徒群では全体およびアレルギーのない生徒群と比べて大体毎日作るが75.3%と少なく、時々抜けるが18.5%と多く認められた。


(4)生徒の生活態度について
 

質問10:図10に示すように、朝の挨拶ができると答えたのは全体では86.9%、アレルギー疾患のある生徒では87.4%、アレルギー疾患のない生徒では86.9%と有意差はみられなかった。

質問11:「子どもさんは、朝から元気に活動しますか?」(図11
全体では77.9%が元気に活動する、22.0%が元気に活動しないであった。アレルギー疾患のある群にない群との比較ではアレルギー疾患のある群がない群に比べて元気があると答えた生徒が有意に低く、元気が無いと答えた生徒が有意に高かった(p<0.05)。

質問12の子どもの体力についての回答では(図12)、アレルギー疾患のある群では、全体とアレルギー疾患のない群と比べて、強いと答えた生徒が有意に低く、少し弱いと答えた生徒が有意に多かった(p<0.01)。


(5)家族構成について
 

祖父母と同居している家族は全体では24.7%、アレルギー疾患のある群では25.0%、アレルギー疾患のない群では24.7%で有意差はみられなかった(図13)。

質問14A:毋親への質問
年齢;25歳〜56歳 (平均;39.3±0.05 標準偏差)
子どものころの食事は図14に示すように米が71.9%、パン3.8%、両方21.9%であった。

質問14B:父親への質問
年齢;29歳〜56歳 (平均;42.48±0.06 標準偏差)
子どものころの食事は図15に示すように米が81.7%、パン2.4%、両方16.8%であった。

質問15A:毋方の祖母への質問
年齢;39歳〜91歳 (平均;66.33±0.16 標準偏差)
子どものころの食事は図16に示すように米が93.2%、パン0.5%、両方2.2%であった。

質問15B:父方の祖母への質問
年齢;40歳〜100歳 (平均;63.54±0.08 標準偏差)
子どものころの食事は図17に示すように米が92%、パン0.4%、両方2.4%であった。

主食についての変化は両祖母の世代では90%以上が米と答えており、父母の世代では米は70〜80%に減少し、パン食の占める割合が増えてきている。また、いずれの群においても、アレルギー疾患のある生徒およびアレルギー疾患のない生徒における比較では有意差はみられなかった。

図18に父母、両祖母のアレルギー疾患の既往歴および生徒のアレルギー疾患についての変化を示す。祖母の代ではアレルギー疾患の既往は著しく少ないが、父母の代になると急激に増加しており、特に花粉症、アレルギー性鼻炎は著明に増加している。子ども達は父母、両祖母と比べてアレルギー疾患の中でも気管支喘息を多く認めた。

父母および両祖母の食物アレルギー頻度による検討(図19)では、米はいずれの世代でもほとんど認められなかったが、小麦、ミルク、特に卵のアレルギーの発生頻度は世代が変わるとともに著明な増加を示している。

(6)

アレルギー疾患のある生徒とない生徒と比べると副食としてのチーズ摂取量に有意差が認められており、その背景について検討してみた。図20に副食にチーズを選んだ子どもの主食についての検討を示す。チーズを選んだ子どもは選ばなかった子どもと比べて主食として毎日ごはんを食べると答えた生徒が有意に低く(p<0.001)、反対に週数回と答えた生徒は有意に多かった(p<0.001)。パン食についての検討ではごはんとは逆にチーズを選んだ子どもは選ばなかった子どもと比べて主食として毎日パンを食べると答えた生徒が有意に高かった(p<0.001)。

副食にチーズを選んだ子どもの父母および両祖母が子どもの頃の食事についての検討では図21に示すように、チーズを選んだ子どもの父母は選ばなかった父母と比べてごはんの有意な減少(p<0.001)と、パンとごはんの両食の有意な増加(p<0.001)を示した。また、父方の祖母においても同様にごはん摂取の有意な減少がみられた(p<0.05)。

チーズを選んだ子どもの主食において、ごはんの摂取量の著しい減少とパン摂取量の増加は、これらの子ども達の父母や祖母らが子どもの頃に食していた主食の変化に既に著明にみられていた。

考察

品川区内の小学校39校、9,177名の小学生を対象に食と健康に対するアンケート調査を行った。この内持病にアレルギー疾患を有する生徒は12.6%で、疾患別では気管支喘息が最も多く、次いでアトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、中耳炎、花粉症、食物アレルギー、副鼻腔炎、アレルギー性結膜炎、蕁麻疹の順に認められた。

子どもの生活態度についてのアンケート調査の結果では、アレルギー疾患のある生徒の方がアレルギー疾患のない生徒よりも活動力が弱く、体力的にも劣っているという両親からの回答が多かった。

食生活について、朝食は9割が毎日食べていると答えられているが、アレルギーのある生徒に於いては毋親の手料理の回数が減っている傾向がみられた。この背景には時代の変化に伴った共働きの関与も考えられた。

主食の内容は両祖母から父母、子どもの世代へと大きな変化がみられており、両祖母の世代では米が90%以上占めていたが、父母の世代から米は70〜80%に減少し、パン食が増えてきて、子どもの世代には毎日米を摂取するのは26.4%と激減し(図22 米の摂取量を棒グラフで示している)、パン食摂取量の著しい増加がみられている。

副食については、アレルギー疾患のない生徒では卵、のりが多く、アレルギー疾患のある生徒ではチーズ、みそ汁、豆腐、魚の摂取が多かった。

我が国に於ける食物アレルギーの原因抗原の頻度はかつて卵白(鶏卵)、牛乳、大豆の順で3大アレルゲンといわれ、その他米、小麦を加えて5大アレルゲンとされていたが、近年、食生活の欧米化に伴い、パン食の増加、大豆関連食品の摂取量の低迷によって、小麦が大豆に変わって3番目となっている1)、2)。

今回の我々の行った調査結果においても同様に明らかなパン食の増加と、副食に於いてはアレルギーのない生徒ではアレルギーについて心配する必要がないせいか、卵の摂取量が多かった。一方、アレルギーのある生徒においては、アレルギーの頻度の高い食品を抜き、ごはん食にしているせいか大豆製品や魚を多く摂取していた。しかし、最も有意差を認めたチーズの摂取群に於いては、祖母の世代からのパン食を好む家族が多く、早い世代からの食生活の欧米化による影響がアレルギー疾患の発症に関与しているように思われた。

小児の食物アレルギーの頻度は平成8年度の厚生省の報告によれば6歳以下の児童の12.6%が食物アレルギー即時型反応を起こすことが示されている3)。また、平成9年度の厚生省食物アレルギー対策検討委員会の報告によると食物アレルギー症状を呈したことのある割合は3歳児で8.6%、小学校1年生で7.4%、小学校5年生で6.2%、中学校2年生で6.3%と報告されている2)。

今回の我々の検討では図22に示すように、食物アレルギーの発症頻度は(折れ線グラフで示している)祖母の世代から父母、生徒の世代にかけて増加を示し(グラフの小学校全体の値は平成9年度の厚生省報告による小学生1年生と5年生の値を引用し、その平均値を示した2))、米の摂取量との関係においては相反して反比例を示していた。

まとめ

今回の我々の調査結果より、祖母から父母、子どもの世代への食生活の変化は、主食が米からパン食へ急激な増加を示し、それに伴ってアレルギー疾患の増加が認められた。また、アレルギー児においての体力の低下も示されており、これら食生活の欧米化に伴った変化はファーストフードなどの動物性蛋白質や動物性脂肪への嗜好が増加し、小児肥満や成人病といった生活習慣病までに影響を及ぼしていると思われる。食物アレルギーはそのアレルゲンの摂取量の違いに原因があると推測されるが、その抗原性の強さなどについては不明である。しかし、主食のほとんどがごはんであった祖母の世代に食物アレルギー疾患が少なかったことより、今後ごはん食への見直しに期待したいと思われる。

参考文献
1) 松山剛、小屋二六:食物アレルギーの疫学 小児科臨床 53:465〜470 2000
2) 飯倉洋治、赤澤、今井孝成ほか:平成9年度厚生省食物アレルギー対策検討委員会
3) 飯倉洋治、赤澤、今井孝成ほか:平成8年度厚生省食物アレルギー対策検討委員会

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