ごはん食に関する医学的 栄養学的研究調査結果
研究調査一覧
都市型生活環境における米およびごはん食の健康増進効果
東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 健康推進医学 教授 高野健人
研究目的

住民の健康は多くの要因によって影響されている。これらの広く健康を左右する生活環境や生活諸条件は健康決定因子(Health Determinants)と呼ばれており、健康決定因子は、人口動態、居住条件、所得、教育、栄養、労働、遺伝的要因、生活習慣、保健・医療・福祉、都市基盤等々の多様で広い範囲に及んでいる。これらの「健康決定因子」は、それぞれ独立で健康に影響をもたらすのではなく、健康決定因子間に複雑な相互の関連性が存在することが知られている。さらに複雑なことは、環境要因が、直接的に健康に影響を及ぼす場合だけでなく、都市環境が食生活やその他の生活習慣や生活水準を変え、文化やライフスタイルを変容して、間接的に健康に影響を及ぼすメカニズムもあることである。食生活がひとびとの健康に及ぼす効果を解明する場合にも、その他の健康決定因子の相互の関係をふまえた検討が必要である。

一方、我が国の市部人口は全人口の70%を超え、また市部以外の地域においても、食品の流通をはじめ生活様式のさまざまな部面に都市化現象が進行している。住民の生活は、都市型大規模市場経済の大きな流れのなかで、国際化、情報化、高齢化、少子化、生産部門の空洞化、省資源化といった諸課題に直面し、持続可能なゆるやかな発展を基盤とし、豊かさやゆとりを求め、個性や多様性を尊重し、自立し、健康や生活の質を第一に選好するといった特徴を強めていくものと予想されている。

米食を中心とした食生活の健康影響については、申請者らが、健康形成過程にある幼児と高校生、生活習慣病発現リスクの高い中高年を対象とした疫学研究により、米食を中心とした食生活が、健康増進、疾病予防、疾病管理および療養にあたってプラスの効果をもたらすことを明らかにしている。都市において健康増進をもたらす食生活を推進するためには、都市の健康決定因子の相互の関係の上に、米及びごはん食が健康増進にもたらす影響を検討する必要がある。

目 的
本研究は、疫学調査、都市健康指標解析の手法により、都市環境における健康決定諸要因と米およびごはん食の関連性、米およびごはん食が健康増進にもたらす直接および間接効果を解析し、都市型生活環境において、米およびごはん食が健康増進にもたらす効果を明らかにすることを目的として行った。
結果
以下の(1)疫学調査、(2)都市健康指標解析を行い、(3)都市型生活環境における米およびごはん食の健康増進効果を総合的に検討した。

(1) 疫学調査
 

1小学校低学年児童をもつ家庭を対象とした、米およびごはん食の世代間伝達と、生活行動、生活環境の関連性に関する疫学研究

東京都江東区、三鷹市、武蔵野市に在住し、3〜5歳児を持つ母親を調査対象とした。住民台帳より無作為抽出集団から得られた当該年齢の幼児を持つ1000の家庭のコホート集団から、116名の幼児および母親が健康調査への参加し、健康調査時に母親に対して以下の質問紙調査を面接にて行った。

調査項目は、基本的属性(居住地、両親の年齢、学歴、職業等)、最近1ヶ月の食品摂取頻度(18品目・群について「1日に2回以上」、「ほとんど毎日」、「週に3〜5回」、「週に1〜2回」、「月に1〜2回」および「ほとんど食べない」の6択)、最近3日間の食品摂取回数(主食(お米、パン類、麺類)、その他29品目)、その他とした。

最近1ヶ月の食品摂取頻度および最近3日間の食品摂取回数について因子分析を用いて食物摂取の構造について分析を行い、食品群の抽出を行った。因子分析にあたり、バリマックス回転を用い、また、因子負荷量の少ない食品目・群は削除し、5〜7つを食品群の抽出を目安に因子の抽出を行った。

因子分析の結果に基づき、各対象者の各抽出因子の因子得点を与え、これらの因子得点と主食の回数(ごはん、パン)、母親の健康習慣、居住地(下町、武蔵野)、収入、父親および母親の学歴との関連を分析した。因子得点と居住地との分析にはt検定、それ以外の要因との分析には相関分析(Spearman)を用いた。なお、母親の健康習慣は「規則正しい食事」、「バランスのとれた食事」、「うす味のものの摂取」、「腹八分目の食事」、「定期的な運動」、「気分転換やレクリエーションの時間」および「十分な睡眠」の7つの健康習慣の実施を得点化(実施している場合に各1点)した。収入は100万以下から1500万以上まで9段階、学歴は小学校、中学校、高校、短期・専門学校、大学、大学院の6段階で把握した。

以下の結果を得た。

因子分析結果
最近1ヶ月の食品摂取頻度および最近3日間の食品摂取回数についての因子分析結果を表1および表2に示した。最終的に、1ヶ月の食品摂取頻度および最近3日間の食品摂取回数ともに17品目を利用した。
最近1ヶ月の食品摂取頻度の因子分析では、各因子で高い因子負荷量を持つ食品より、因子1から「野菜類」、「卵・手軽な食品類」、「インスタント麺・スナック類・ジュース類」、「乳製品・果物類」、「汁・海草類」、「魚類」の6つの食品類が抽出できた。
一方、最近3日間の食品摂取回数の因子分析から、「和野菜類」、「卵・ハム類」、「洋野菜類」、「牛乳・果物類」、「ひき肉料理類」、「スープ・魚類」の6つの食品群が抽出できた。

因子得点と主食回数との関係
主食(お米、パン類)の摂取回数と 最近1ヶ月の食品摂取頻度(因子分析1)および最近3日間の食品摂取回数(因子分析2)から得られた食品群の摂取状況との相関を表3に示した。
お米の摂取回数は、因子分析1での因子2「卵・手軽な食品群」と有意な負の(r=-0.32)、因子分析2での因子1「和野菜類」と有意な正の(r=0.32)相関がみられた。一方、パン類の摂取回数は、因子分析2での因子2「卵・ハム類」および因子3「洋野菜類」と有意な正の相関(それぞれr=0.19、0.20)がみられた。有意ではないものの、パン類の摂取回数は、因子分析1での因子2「卵・手軽な食品類」と正の、および因子分析2での因子1「和野菜類」と負の相関がある傾向がみられた(p<0.1)。

健康習慣、社会経済的要因と食品摂取
母親のライフスタイル、年収、両親の最終学歴と食品摂取との関係について、次の結果が選られた。母親のライフスタイルは、最近1ヶ月の食品摂取頻度(因子分析1)から得られた因子1「野菜類」と有意な正の相関がみられた。年収と有意な相関のある食品群はなかったが、最近3日間の食品摂取回数(因子分析2)から得られた因子6「スープ・魚類」と正の相関のある傾向があった(r=0.17、P=0.06)。父親の最終学歴は、因子分析1の因子3「インスタント麺・スナック菓子・ジュース類」と有意な負の相関があった。有意ではないが、父親の最終学歴は、因子分析1の因子1「野菜類」と正の相関のある傾向が認められた(r=0.18、P=0.06)。母親の学歴と食品摂取状況で有意な相関は認められなかったが、因子分析1の因子3「インスタント麺・スナック菓子・ジュース類」と負の相関がある傾向があった(r=-0.16、P=0.08)。

2働き盛りの男性の米およびごはん食、健康、生活行動、生活環境の関連性に関する疫学解析

対象は東京都に在住の45〜49歳の男性とした。台東区、江東区、中野区、武蔵野市、三鷹市を調査対象地区とし、住民台帳に基づき無作為抽出を行った。対象者に事前に調査依頼文を送付し、同意の得られた者に対して訪問し、質問紙による個別面接聴取を行った。

調査項目は、(1)基本的属性、(2)過去3日間の食生活:3食(朝、昼、夜)別に1主食の種類(お米、パン類、麺類、その他)、2主食別の食品摂取回数(23品目・群)の把握、(3)生活習慣(「規則正しい食事」、「バランスのとれた食事」、「うす味のものの摂取」、「腹八分目の食事」、「定期的な運動」、「気分転換やレクリエーションの時間」および「十分な睡眠」、喫煙習慣、飲酒習慣)、(4)自覚的健康度(過去1年間の健康状態を「よい」、「まあよい」、「あまりよくない」、「よくない」で回答)、(5)自覚症状(「背中や腰の痛み」、「肩や背すじのこり」など18項目)、(6)身長、体重、血圧(自己申告)とした。

今回の調査では、最近3日間の食習慣についてした。うち、3日間の主食の種類別の回数(お米、パン類、麺類)を用いて、対象を4つのクラスターに区分した。

区分したクラスター別に、1各主食の摂取回数、2自覚的健康度、3自覚症状の数、4実践している一般的健康習慣の数、5現在の喫煙習慣、6BMI(Body Mass Index=(体重)/(身長)2)、血圧 (体重、身長、血圧はいずれも自己申告)について比較を行った。

なお、統計学的分析にはSPSS7.5J/PCを用いた。

以下の結果を得た。

各主食の摂取回数およびクラスター区分結果
対象者全員の3日間の各主食の回数は、お米5.6±2.0回(平均±標準偏差、以下同様)、パン類1.2±1.4回、麺類1.2±1.2回であった。
クラスター分析の結果を表1に示した。4つのクラスターに区分したところ、107名、102名、211名、236名に分かれた。クラスター1は、麺類の回数が多く(2.5±1.3)、お米とパン類の回数が少なく、麺を主食とする回数の多い“麺派”と考えられた。クラスター2は、お米、パン類、麺類すべてがある程度回数が多く、“なんでも派”を考えられた。クラスター3はお米、クラスター4は、お米とともにパン類の回数が多く、それぞれ“ごはん派”、“ごはん・パン派”と考えられた。

主食パターンと自覚的健康度および自覚症状との関係
クラスター別の自覚的健康度では、「よい」と答えた人の割合は、麺派29.2%、なんでも派42.2%、ごはん派43.1%、ごはん・パン派39.6%で、麺派がもっとも少なく、ごはん派がもっとも多かった。
クラスター別の自覚症状の個数を表2に示した。麺派はごはん派およびごはん・パン派に比較して有意に(P<0.05)自覚症状の回数が多かった。

生活習慣
実践している生活習慣(7つ)の数をクラスター別に比較した結果、なんでも派は麺派よりも有意に(P<0.05)多かった。有意ではないが、ごはん派とごはん・パン派も麺派より実践している生活習慣が多かった。
喫煙の状態を比較した結果では、クラスター間で有意な差が認められ(カイ2乗検定、P<0.001)、喫煙率は麺派がもっとも高く(73.8%)、ごはん派がもっとも低かった(49.8%)。

BMI・血圧
クラスター別にBMIと血圧を比較した結果、BMIでは、ごはん派は麺派より有意に(P<0.05)高かった。血圧では、最高血圧と最低血圧ともにクラスター間で有意な差は見られなかった。

(2)米の消費動態統計に基づく都市健康指標解析
 
東京都における市区別米消費量
米消費量の資料として、東京食糧事務所管内の平成7年から11年までの米の消費動向調査月別調査表の個票を利用した。
まず、米消費量の算出方法として、通常の算出方法にしたがって、うるち米、もち米およびもちの購入等数量、同月初手持数量、同月末手持数量より消費数量を算出し、家族1人当りの消費数量を算出した。得られた1人当たり米消費量を属性別(職業別、世帯人数別、高齢者(60歳以上)または子供(10歳未満)の有無、報告年)に比較した。
通常の算出では、すべての年齢の世帯員を同一とみなし、年齢による消費量の違いを考慮していない。そこで、ここでは、年齢による消費量の違いを考慮した年齢補正消費量の算出を行った。まず、補正値1として高齢者および子供による補正を行った。消費量を従属変数に、子供(10才未満)の数、大人(10才以上60才未満)の数、高齢者(60才以上)の数を説明変数にした重回帰式を算出し、以下の式を用いて補正値を算出した。

補正値1=(世帯当たり米消費量)/((大人の数)+a×(子供の数)+b×(高齢者の数))

ただし a=(重回帰式での子供の係数)/(重回帰式での大人の係数)
    b=(重回帰式での高齢者の係数)/(重回帰式での大人の係数)

同様に、子供のみを補正した補正値2を算出した。これらの補正値を非補正値と同様に、属性別、市区別に比較した。

市区別米消費量と死亡率および社会経済的要因との関連
1994年から1996年の各市区別の性・年齢別(5歳階級)死亡数(全死因)、1995年国勢調査人口および1985年日本モデル人口を用いて、性別に市区別年齢調整死亡率を算出した。なお、全死因、悪性腫瘍、胃がん、肝がん、肺がん、乳がん(女性のみ)、子宮がん、脳血管疾患、心疾患とした。
市区別の社会経済的指標として、経済、教育、住宅、人口静態、都市インフラ、緑地等に関する指標を、1990年国勢調査、同年住宅統計、同年家計調査より抽出した。
まず、1人当たり米消費量(非補正値および補正値)と死因別死亡率との相関係数を算出した。次に、1人当たり米消費量と社会経済的指標の相関を算出した。
社会経済的指標に関して、因子分析(バリマックス回転、固有値1以上のものを有意とした)を用いて統合化した社会経済的因子を抽出した。得られた因子と1人当たり米消費量との相関係数を算出した。さらに、1人当たり米消費量との相関係数で有意な関係がみられた死亡率を従属変数に、1人当たり米消費量および社会経済的因子を独立変数に、重回帰分析(強制投入法)を行った。

以下の結果を得た。

東京都における市区別米消費量
基本的属性別の1人当たり米消費量(補正値)を表3に示した。なお、これらのすべての属性において、すべての群間で有意な差がみられた。職業別では、事務職が1人当たり米消費量がもっとも多く、自由業がもっとも少なかった。世帯員数別では、2人世帯が1人当たり米消費量がもっとも多く、1人世帯がもっとも少なかった。高齢者のいる世帯はいない世帯に比べて1人当たり米消費量が多く、子供のいる世帯はいない世帯に比べて1人当たり米消費量が少なかった。

市区別米消費量
市区別の1人当たり米消費量を検討した結果、非補正値でもっとも消費量が多かった区市では(4.32kg/月)で、もっとも少なかった区市では(2.24kg/月)であった。補正値1、補正値2とも同様な結果を示した。

市区別米消費量と死亡率および社会経済的要因との関連
市区別の1人当たり米消費量と死亡率との相関解析の結果から、次の関係が認められた。一人当たり米消費量は、女性の乳がん死亡率と負の、女性の肺がん死亡率と負の、女性の心疾患死亡率と正の有意な相関がみられた。
市区別の1人当たり米消費量と社会経済的指標との相関解析結果を、表4に示した。米消費量と有意な正の相関がみられたのは、人口増加率、一般世帯対核家族世帯数、就業者数対第2次産業就業者数、日照5時間以上の住宅割合であった。逆に、有意な負の相関がみられたものは、高齢化率、人口総数対世帯人数が1人の世帯、就業者数対第3次産業就業者数、年齢調整学歴年数、世帯当たり平均収入、世帯当たり収入標準偏差、1人当たり所得であった。非補正値も補正値も有意な相関がみられたものは同じであった。
社会経済的指標による因子分析の結果、5つの因子が抽出された。
死亡率を従属変数、一人当たり米消費量、および社会経済指標から得られた5つの抽出因子得点を独立変数として、重回帰分析を行った結果、男の全死因による死亡率は、社会経済条件の影響を補正すると、一人当たり米消費量が多いほど、死亡率が低くなる傾向が認められた。(標準化重回帰係数 -0.16、p=0.08)
考察
(1)小学校低学年児童をもつ家庭を対象とした、米およびごはん食の世代間伝達と、生活行動、生活環境の関連性
 

今回の調査の結果、都市に暮らす乳児を持つ家庭の食品摂取の構造が明らかになった。

まず、最近1ヶ月の食品摂取頻度による因子分析(因子分析1)では、6つの因子が抽出された。それぞれの因子で高い因子負荷量を示す食品を考慮して、「野菜類」、「卵・手軽な食品類」、「インスタント麺・スナック菓子・ジュース類」、「乳製品・果物類」、「汁・海草類」、「魚類」と説明した。卵とレトルト食品、あるいは牛乳・乳製品と果物類が同一の食品群に含まれており、これらが食パターンの傾向を表すものと考えられた。

一方、最近3日間の食品摂取回数の因子分析(因子分析2)からは、「和野菜類」、「卵・ハム類」、「洋野菜類」、「牛乳・果物類」、「ひき肉料理類」、「スープ・魚類」の6つの食品群が抽出できた。先の1ヶ月間の食品摂取頻度と比較すると、野菜関係が、因子分析1ではひとつの因子にまとまっているのに対して、因子分析2はでは因子1「和野菜類」と因子3「洋野菜類」に分かれていた。こうした違いは、調査の対象とした期間とともに、質問紙で用いた食品の数や分類の違いの影響を受けていると考える。

食品摂取・栄養調査にはさまざまな方法があり、それぞれに長所と短所がある。食品摂取頻度調査の調査期間による比較を行ったBlockら(1992)によると、24時間思い出し法と3日日間の食事記録によるものでは、各栄養素の摂取量の相関係数は0.6以上と比較的よい相関を示していた。また、江上ら(1999)によると、食品摂取の個人内変動は小さく、短期間の思い出し法や記録法による食事調査でも日常の平均的摂取量の把握が十分可能だとしており、どの方法でもある程度食品摂取のパターンは把握できるものと考える。

これらの食品摂取と主食との関係では、お米の摂取回数が因子分析2での因子1「和野菜類」と有意な正の相関がみられたことや、パン類の摂取回数が因子分析2での因子2「卵・ハム類」および因子3「洋野菜類」と有意な正の相関がみられたのは、和食傾向と洋食傾向として当然の結果であると思われる。また、お米の摂取回数が因子分析1の因子2「卵・手軽な食品群」と有意な負の相関が見られたことは、ごはんの回数が少ない家庭はレトルト食品等の手軽な食品を多くとる傾向があることを示唆するものである。わが国は現在世界一長い平均寿命を持つが、医療水準の高さと医療制度の他に、日本人の食生活がその原因のひとつとされている(山城 1999)。すなわち、蛋白源が多種で、比較的低脂質かつ魚油が多く、複合的糖質(食物繊維など)が多いという特徴を持っている。これらの傾向は、因子分析1の因子1、因子分析2の因子1によって示されると考えられるが、因子分析2の因子1がお米の摂取回数を有意な正の相関を示していることから、主食をお米とすることでこれらの食品群が多く摂取されることが示唆される。

一方、有意ではないものの、パン類の摂取回数が因子分析1での因子2「卵・手軽食品類」と正の相関があるのは、洋食傾向の他に、パン食の多い家庭はレトルト食品等の手軽な食品を多く傾向があることを示唆すると考える。

母親のライフスタイルと食品摂取との関係では、母親が健康的なライフスタイルを実践しているほど、因子分析1の因子1「野菜類」の摂取が多かった。これは、健康に注意し、それを実践している母親は野菜を多くとる傾向があることを示唆するもので、「野菜を多くとる」ということがひとつの健康的な習慣として認識されているのであろう。また、少子化の進む現在では、子どもが大人の生活リズムに引きずられることによって、子どもの生活が夜型化するという現象がみられ、このような傾向は食事のリズムや栄養摂取とも関係するとされている(水野 2000)。したがって、子どもの健康な食生活を確立させるためには、両親を含む家庭全体での健康への気配りが重要と考える。

日常の食生活は社会経済的要因に影響を受けていることが予想されるが、今回の調査の結果、学歴、特に父親の学歴が高いほど、因子分析1の因子3「インスタント麺・スナック菓子・ジュース類」の摂取が少ないことが認められた。「ジュース類」を多く飲む子どもは、「牛乳類」や「お茶類」を飲む子どもに比較して、欠食の回数が多く、食欲の少ない割合が多く、身体的な症状も多いという報告がある(ニ見 2000)。スナック菓子などのおやつについては、単に健康問題だけではなく、「いい子」であった報酬として与えたり、子どもの遊び相手になるのが嫌だから与えたりするなど、その与え方によってのちの子どものおやつに対する考え方や無意識なとり方に影響を与えるとされている(太田 2000)。親の学歴が高い家庭は、心身の健康に好ましくない影響を与えると考えるこうした食品群を避ける傾向をもつことが示唆された。

わが国の食の現状は1960年代を境として急激に変化し、子どもと食と健康に関しては、感染症流行の原因となった低栄養状態の問題から、いわゆる生活習慣病のリスクとなる肥満や高脂血症の増加となっている。また、生活パターンの多様化や生活リズムの乱れに伴う欠食、間食、個食、あるいは夜食の増加は、精神的な「イライラ」あるいは不定愁訴の発症とも関係しているとされている(水野 2000)。子どもをもつ家庭の食品摂取や食パターンは、お米の摂取回数との関連が認められたことから、子どもの米摂取と食パターンが子どもの健康に及ぼす影響については、社会経済的要因、地理的要因、健康への関心、他の生活習慣との相互関係をふまえた解析が必要である。


(2)働き盛りの男性の米およびごはん食、健康、生活行動、生活環境の関連性
 

近年、日本人の食習慣・栄養摂取状況は大きく変化した。昭和50年から平成9年までの摂取量の変化を見ると、たんぱく質の総量は81gから80.5gとほとんど変化はないが、動物性たんぱく質は38.9gから43.9gに増加した(厚生省保健医療局 1999)。脂質は総量でも55.2gから59.3gに増加し、一方、炭水化物は335gから273gに減少した。昭和25年からの変化でみると、動物性脂質は4倍以上、動物性たんぱく質は2倍以上増加した。(厚生省保健医療局 1997)

こうした食習慣・栄養摂取量の変化を含むライフスタイルの変化は、疾病構造に大きな変化をもたらした。死因では、低栄養を基盤とする結核が減少し、その後、死因の第1位であった脳血管疾患も減少し、現在の死因第1位は悪性新生物である(厚生統計協会 2000)。特に、近年わが国で増加している大腸がんと乳がんは脂質摂取量の増加と関係しているとされている(日本がん疫学研究会 1998)。

食習慣・栄養摂取の変化は主食の変化でもあらわれている。減少した炭水化物の中でも、特に米類摂取量は昭和50年の248gから165gに減少し、小麦類摂取量は昭和50年の90.2gから92.2gとやや増加している。全体的に主食となる炭水化物が減少し、中でもごはんの摂取量が大きく減少したことを示している。こうした主食の変化は、他の食品・栄養素摂取状況、あるいは健康状態に少なからず影響を与えると思われるが、個人レベルでのこれらの関係性は明らかではない。

今回の結果として、麺の回数が他のクラスターよりも多い麺派は過去3日間の主食の回数が有意に少なかった。麺派の主食摂取の平均回数は6.5回で、3日間のうち2から3回は主食をとらないことがあり、欠食していることが示唆された。一方、他のクラスターの主食摂取の平均回数は8.3〜8.4回で、欠食の回数も1回あるかないかであると考えられた。これらの結果から推測するに、麺派以外のごはん派等のクラスターは、朝、昼、夜の食事をきちんと摂取する規則的な食習慣を持っているようである。

また、麺派は、実践している健康的な生活習慣の数も少なく、喫煙率が高く、不健康なライフスタイルを送っていると思われた。さらに、自覚的健康度に関しても、最近1年間の健康状態を「よい」と答えた人の割合は、麺派がもっとも少なく、ごはん派がもっとも多かった。自覚症状についても、麺派は他のクラスターよりも自覚症状を多く持つ傾向があった。

クラスター分析を利用し、小児期の食生活パターンと肥満度との関係を分析した伊津野ら(1999)によると、牛乳をよく飲み、脂身をあまり食べない群、牛乳をあまり飲まず、味噌汁をよく飲む群で肥満の頻度が有意に低いことが示されている。今回の調査でも、食品摂取状況により類型化したクラスター間で、自己申告ではあるが、客観的な身体的特徴に有意な差が認められた。肥満度の指標であるBMIでは、麺派はBMIがもっとも低かった。肥満はさまざまな慢性疾患のリスクファクターであり、特に、男性の肥満者は年々増加傾向にある(厚生省保健医療局 1999)。肥満度と疾病発生・死亡のリスクはいわゆるU字カーブを描くとされ、BMIでは22がもっとも疾病に対するリスクが低いとされている(日本肥満学会 2000)。すなわち、肥満者とともにやせも高いリスクを持つとされ、単純にBMIが低い麺派の客観的健康度が高いとは一概に結論できない。事実、血圧値では、クラスター間に有意な差は見られなかった。

平均寿命の長さに代表される日本人の高い健康水準の原因として、比較的低脂質(魚油の割合が多い)、高複合糖質(食物繊維が多い)、低単純糖質(低蔗糖)を特徴とする和食の食生活があげられる(原 1989)。今回の調査でも、お米を主食とする和食傾向のクラスター群は、好ましい生活習慣を送り、自覚的健康度や自覚症状が少ないなどのより高い健康状態であることが示唆できた。

ただし、今回の結果は主食のパターンが直接健康度や疾病の発生に関連していることを結論するものではなく、主食が直接的に健康状態に影響を与えると考えるよりは、主食パターンはむしろ食習慣・栄養摂取の全体的な傾向を示すものと考えることが適当であるように思える。また、因果関係論からすると、例えば、体調が思わしくないために麺が多い食生活になったり、食欲不振により欠食がおこったりしているも考えることもできる。

また、今回の調査では、東京都内の複数の場所を調査対象としている。主食パターン、生活習慣等をこうした地区ごとに比較することで、地域による健康度の違いを説明できる要因が明らかになるかもしれない。さらに、収入や学歴等の社会経済的要因、労働条件も個人や集団の健康を決定する要因であるが、これらの指標と食習慣・栄養摂取状況、生活習慣、健康度との関連性を明らかにすることが都市に暮らす働き盛りの中高年に対する疾病予防・健康増進に寄与すると思われる。


(3)米の消費動態統計に基づく都市健康指標解析
 

近年、わが国おいては生活全般にわたり欧米化が進み、食生活もそれにともなって大きく変化した。食品や栄養摂取と疾病の発生との関連性も明らかにされている。わが国では、高血圧やそれに伴う脳血管疾患は食塩の摂取との関係が示され、なおかつ、ごはん、味噌汁、漬物に代表される伝統的な食生活を維持しながらも、主菜、副菜の多様化をはかり、欧米型ではない近代型食生活の形成が、血圧の低下に大きく寄与したとされている(田中 1998)。逆に、脂肪の摂取は、大腸がんや乳がんのリスクを高めるとされ(日本がん疫学 1998)、わが国におけるこれらのがんの増加は日本人の食生活の変化に多大な影響を受けていると思われる。

主食である米やパン類と特定の疾病との直接の関係は明らかになっていないものの、主食の違いによる特定の食品・栄養素または栄養摂取パターンが特定の疾患と関連している可能性はある。例えば、パン食にともなう動物性脂質摂取の増加によって(いわゆる洋食傾向)、心疾患や大腸がん、乳がんのリスクが高まることは考えられる。一方、米食に伴い増加する食塩が高血圧等の疾病の発生を高めていることも予想される。国民栄養調査によると、1人1日当たりの米類の摂取量は昭和50年の340gから平成9年の259.7gに減少した。米類摂取量の減少にともない昭和60年まで食塩の摂取量も減少したが、その後、米類摂取量が減少しているにもかかわらず、食塩摂取量は減少しているわけでない(厚生省保健医療局 1999)。したがって、今日では米を主食とする食事パターンが塩分摂取を増加させるということは一概に言えるわけではない。

米類の摂取量については地域による較差もみられる。地域ブロック別に比較すると、米類摂取量がもっとも多いのは、近畿II(奈良県、和歌山県、滋賀県)、ついで北陸(新潟県、富山県、石川県、福井県)である。一方、少ないのは、関東I(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県)、ついで近畿I(京都府、大阪府、兵庫県)である。これらの違いは、地域によるものより、むしろ都市化によるものと考えられ、人口規模別に米類摂取量を比較すると、12大都市・特別区はもっとも少なく、人口規模が小さい方が多くなる(厚生省保健医療局 1999)。

今回の結果でも、人口対世帯人員が1人の世帯数、就業者数対3次産業就業者数等の都市化に伴い大きくなる社会経済的指標と1人当たり米消費量は有意な負の相関があった。人口増加率は一般には都市化を表す指標と考えられるが、東京都に限定すれば、特別区等より郊外の市の方が人口増加がみられることから、必ずしも都市化を示すわけではないため、米消費量と正の相関がみられたと思われる。

死亡率と1人当たりの米消費量との関係では、女性の肺がんと乳がんで有意な負の相関がみられた。逆に、女性の心疾患は有意な正の相関があった。しかしながら、住民の健康度は彼らの暮らす生活環境やその社会経済的水準に強く受けている(Takano 2001、高野 1998、Takeuchi 1995)。つまり、米消費量と健康水準との関連性を検討するには、米消費量に差異をもたらしている生活環境条件や社会経済水準の影響を調整した上で、米消費量と健康水準との関係を検討しなければならない。重回帰分析の結果は、生活環境条件ならびに社会経済的要因を独立変数に加えた場合、米消費量と男性の全死因の死亡率の間に負の相関関係を示しており、つまり、米消費量が多いほど、死亡率が低くなる関係が存在する可能性を示唆していた。

要約

健康決定要因のさまざまな条件の組み合わせを想定し、異なる都市型生活環境条件下における、米およびごはん食の健康増進効果について検討した結果、以下が明らかになった。

子供を持つ都市部住民の食物摂取構造が明らかになった。これらの構造による食摂取構造と主食の種類とには有意な関係があった。主食の回数と健康習慣、居住地、あるいは収入や学歴の社会経済的背景の間には有意な関連性は認められなかったが、いくつかの食物摂取構造はこれらの背景と有意に関連していた。都市生活のさまざまな側面が、都市住民の食生活に影響を与え、また、他の健康習慣と複雑に関係していることが明らかになった。

働き盛りの男性の食物摂取パターン、特に主食の摂取パターンは個人の健康水準あるいは一般的健康行動と有意に関連していることが明らかとなった。特に、お米を主食とする傾向のある人は、規則正しい食生活をしており、自覚的健康度が高く、一般的健康習慣にも注意をしていることが示唆された。

東京都の区市を単位とする1人当たり米消費量と主要な死因の年齢調整死亡率との関係について、社会経済的要因を考慮して統計学的に分析を行ったところ、米の消費量は女性肺がん死亡率および女性乳がん死亡率と有意な負の相関、女性の心疾患死亡率と有意な正の相関が見られた。米消費量はさまざまな社会経済・環境要因とも相関が認められたため、社会経済的要因を調整すると、米消費量と男性の全死因の死亡率の間に負の相関関係、つまり、米消費量が多いほど死亡率が低くなる関係が存在する可能性が示唆された。これらの結果より、1人当たりの米消費量は大都市圏に限定しても地域によって差があり、死因別死亡率で計測する健康水準との関連性が示唆された。

文献
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