テーマ:「子どもの生活習慣とその問題点」

東京女子医科大学名誉教授 村田光範先生

現代の子どもたちの生活習慣は乱れている!

 小・中学生の時期は、食習慣が完成する重要な時期です。ところが、今の子どもたちは食事・運動・睡眠といった基本的な生活習慣が乱れているのです。平成20年度の文部科学省の調査によると小学校6年生の10人に1人が、そして中学校3年生の5人に1人が朝ごはんを食べないことがあるといっています。
 朝ごはんを食べない理由について平成22年度の日本学校保健会による「児童生徒の健康状態サーベイランス事業報告書」によると、その理由として「食べる時間がない」、「食欲がない」といっているものが、およそ80%を占めています。要するに「夜更かし型生活」が朝ごはんを食べない大きな理由なのです。

朝食を食べない理由

 

目覚めの悪い子どもたち

 今の子どもたちの朝の目覚めについて年次推移を調査した成績によると、2000(平成12)年ごろからすっきり目覚める子どもたちが少しずつですが、増えてきています。これは文部科学省が中心になって展開している「早寝、早起き、朝ごはん」運動の成果であるといえます。それでも「朝、すっきり目が覚める中・高校生」は、男子で20%、女子では15%しかいないのです。大半の中・高校生は学校に通っている日中に眠たいと訴えているのです。

すっきり目が覚めた割合の年次推移

 

毎日朝ごはんを食べている子どもは学力調査の成績がよい

 すっきり目を覚まして朝ごはんを食べないと、学業成績にも影響するといわれています。文部科学省は2008(平成20)年度全国学力・学習状況調査の際に、朝食の摂取と学力調査の平均正答率の関係を報告しています。毎日朝食を食べている群は、全く食べていない群に比べて正答率が高いことがわかります。
 朝食を食べない理由が「食べる時間がない」、「食欲がない」ということであれば、こんな身体と心の状態では、学力調査の成績がよくなるはずがないし、また朝ごはんを食べないと頭もよく働かないのです。

朝食の摂取と学力調査の平均回答率との関係

運動不足が体力低下につながる

 今の子どもたちは、日常生活の中で身体を動かすことが少なくなっています。このために体力低下が心配されています。文部科学省が2007(平成19)年度に1985(昭和60)年度と比較した体力テストの結果を報告しています。1985年度に比べて身長と体重は大きくなっていますが、ソフトボール投げ、立ち幅とび、50m走、握力ともに大きく低下していることが分かります。このため学齢期の子どもの体力を向上させる活動が学校教育の中で展開されていますが、この成果がみられるにはまだかなりの時間が必要だと思われます。

昭和60年度と平成19年度の体格及び体力の比較
 日常的に運動をしている子どもは、運動をしない子どもに比べて体力テストの成績がよいことがわかっています。文部科学省が2010(平成22)年度に小学校5年生と中学校2年生について報告した体力テストの成績では、1週間の総運動時間(学校の体育を除く)が60分未満の群がもっとも体力テストの成績が悪いことがわかります。子どもは1日1時間以上身体を動かすことが、わが国でも世界の各国々でも推奨されています。子どもは小さいころから身体を動かす習慣をつけましょう。

1週間の総運動時間と体力テスト項目別得点
 

子どももメタボリックシンドロームに注意が必要

 今、成人に対して国をあげて肥満対策、すなわちメタボリックシンドローム (以下、メタボ)対策を行っています。子どもの肥満対策としても成人同様にメタボ対策が必要であり、今では子どものメタボ診断基準が報告されています。
  今の小・中学生の2~3%がメタボになっているといわれています。

小児期メタボリック症候群の診断基準

子どものやせが増えている

 成人のメタボ対策などの効果があって、国民全体が肥満に関心が向いていることと、学校での健康教育の成果が上がってきていることなどから2000(平成12)年ごろから、学齢期の子どもの肥満は減少傾向を示していますが、今度はやせ傾向の子どもが男女ともに増えてきています。これは子どもにもみられるダイエット志向や運動不足による筋肉量の低下などが原因だと思われますが、これからの子どもの健康を考えるときに大きな問題だといえます。
 これからは子どもの肥満対策同様に、子どものやせ対策が必要です。

年齢別肥満出現率年次推移

年齢別やせ出現率年次推移

望ましい生活習慣とは?

 まず、朝昼夕の3食をきちんと、そして主食、主菜、副菜の揃った食事をすることです。健康を維持増進するために理想的な食事内容であるごはんを中心にした日本食のよさが世界で認められています。主食をごはんにすると、いろいろな食材を組み合わせておいしい主菜と副菜を食べることができるので、自然と栄養バランスが整った食事になるのです。1日1時間以上の運動と十分な睡眠にも心がけてください。