アディポネクチンを増やして動脈硬化・心血管病を予防

大阪大学大学院医学系研究科
保健学専攻生体情報科学教授
木原 進士先生

 「アディポネクチン」というまだ耳慣れない物質は、内臓脂肪と心血管病の関係を研究するなかで発見されました。アディポネクチンは、脂肪細胞から分泌されて血液中にあり、動脈硬化を起こす炎症物質の働きを抑える善玉物質です。血液中のアディポネクチンが増えれば、動脈硬化から起こってくる心血管病などの予防に有効です。

アディポネクチンが低いと動脈硬化になりやすい

 アディポネクチンの血中濃度は、一日中ほとんど変化せず安定しています。そして、血管の内側に傷がつくと、アディポネクチンが集まってきて過剰な炎症が起こらないように調節しています。しかし、肥満症、特に内臓脂肪が蓄積すると、全身の酸化ストレスが増え、脂肪細胞から様々な悪玉物質が分泌されるようになり、逆にアディポネクチンは分泌量が減って、血中濃度が低下してしまいます。
 血中濃度が低下すると、心血管病の原因となる動脈硬化が起こりやすくなります。また、アディポネクチンが低い人では、内臓脂肪面積が大きく、血圧、空腹時血糖、中性脂肪などが高く、善玉のHDLコレステロール値が低いという関連があります。そこで、アディポネクチンが低いと動脈硬化が起こりやすいという現象が、肥満、血圧、血糖や脂質の異常といったものを介しているか否かを、冠動脈疾患(狭心症や心筋梗塞)で調査しました。すると、肥満、血圧、血糖や脂質の異常を調整しても、アディポネクチンの血中濃度が4.0μg(マイクログラム)/(・パー)mL(・ミリリットル)未満の人では、冠動脈疾患になる率が2倍にも跳ね上がることがわかりました(図1)。アディポネクチンが低いと、血中の脂質や糖、血圧の異常も起こしやすくなりますが、このことは、それらとは全く別のメカニズムで動脈硬化の危険因子となることを示しています。

<図1 アディポネクチンの血中濃度が低いことは、それだけで冠動脈疾患(狭心症や心筋梗塞)の危険性を高める>

図1 アディポネクチンの血中濃度が低いことは、それだけで冠動脈疾患(狭心症や心筋梗塞)の危険性を高める

 先天的にアディポネクチンが低い人では、肥満していなくても高血圧、糖尿病、脂質異常症、冠動脈疾患が高い頻度でみられます。このことから、アディポネクチンが低いこと自体が、メタボリックシンドロームや動脈硬化の原因になっている可能性が考えられます。そこで、動物実験でアディポネクチンを不足させたり補充したりして、原因となるかを研究しました。アディポネクチンが欠乏した状態に、動物性脂肪と砂糖の多い食事や食塩の多い食事を与えると、それぞれ糖尿病や高血圧となり、アディポネクチンを補充すると正常化することが観察されました。動脈硬化を起こしやすい動物モデルにアディポネクチンを補充することで、動脈硬化の進行を抑えることもできました。これらのことから、アディポネクチンを増やすことが、メタボリックシンドロームや動脈硬化の予防になると考えられます。

日本型の食生活でアディポネクチンを増やそう

 アディポネクチンを増やして悪玉物質を減らすには、まず、肥満しないこと、特に内臓脂肪をためないことです。食事療法や運動療法を行って10%の減量に成功すると、アディポネクチンの量は40〜50%も増えることがわかっています(図2)。また、喫煙は酸化ストレス*そのものですから、アディポネクチンを増やすには禁煙することも大切です。

<図2 食事・運動療法によってアディポネクチンの血中濃度は増える>

図2 食事・運動療法によってアディポネクチンの血中濃度は増える
 アディポネクチンの量は食事によっても増減します。動物性脂肪に含まれる飽和脂肪酸はアディポネクチンを減らす作用を持っています。逆に、魚に多く含まれるエイコサペンタエン酸(EPA)は、アディポネクチンの量を増やしてくれることがわかっています。したがって、動物性脂肪のとり過ぎに注意し、魚を多くとるよう心がけることが有用です。また、砂糖などの単純糖質をとり過ぎると、内臓脂肪を増やす作用があることもわかっています。
 ごはんを中心に野菜や魚などを十分にとることができる日本型の食事は、アディポネクチンを増やし動脈硬化を予防するのに適していると考えられます。

* 酸化ストレス:

 身体の中で発生する活性酸素が増え過ぎて、もともと備わっている抗酸化力を上回るため生じます。老化を早めたり、ガンや生活習慣病の原因となります。


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