糖尿病の予防・改善のための運動療法のポイントは“楽しむ”こと

筑波大学大学院
人間総合科学研究科
スポーツ医学専攻教授
田中 喜代次先生

 体をあまり動かさなくなった現代人は、その多くが糖尿病への危険にさらされているといえます。運動は筋肉に糖を取り込むことによって血糖値を下げ、内臓脂肪を減らしてメタボリックシンドロームの改善にもつながることから、糖尿病の予防・改善の一つの柱となっています。

自分に合った運動を習慣化し“楽しむ”

 運動療法は、自分に合った運動の種目、強度、時間、頻度をみつけ、そのうえで1週あたりのエネルギー消費量を徐々に増やしていくことが大切です。

 具体的には、ウォーキングなどの有酸素性運動とスクワットなどのレジスタンス運動(筋力トレーニング)、これにストレッチなどを組み合わせ、それが習慣となるようにします。

運動は毎日行うことが理想です。毎日行う場合には、強めの運動は週に1日のみとして、他の日は、軽めの運動を行うようにします。週3日しか時間がとれない人は、日をあけながら強めの運動を含めると大きな効果が期待できます。

 運動を続けるためのポイントは、なにより大いに楽しむことです。これは、糖や脂質の代謝をよくする以外にも、心臓や肺、筋肉などの機能を高め、精神を安定させ、快眠、快便、肩こり解消などのさまざまな効果をもたらします。

まず食習慣の改善を
そして、運動の併用にステップアップ

 次に、エネルギー摂取と消費のバランスを考えてみましょう。

 30分間のウォーキングで消費されるエネルギー量は、100〜150kcalほどです。さらに、運動後30分程度は10〜15kcal余分にエネルギーが消費されるので、合計で110〜165kcal消費されます。しかし安静にしていても30kcalは消費されるので、差し引くと、運動の正味の効果は80〜135kcalになります。

 これを食べ物に換算するとドーナツ半分程度になり、30分週3回のウォーキングとドーナツを1週間に1個半減らすことが同じになります(図1)。このことから、まず食生活を改めるほうが有効だということがわかります。

<図1 運動習慣化の効果と限界>

図1 運動習慣化の効果と限界

 また、私たちが取り組んでいる減量教室での肥満男性の3か月後の体重変化をみると、運動のみの群でマイナス2.6s、食習慣改善のみの群でマイナス6.4s、そして、食習慣改善と運動の併用群ではマイナス8.7sと、運動よりも食習慣改善、食習慣改善よりも運動と食習慣改善を組み合わせた群のほうが、明らかに体重が減少しました(図2)。

<図2 運動習慣と食習慣改善の併用による減量効果>

図2 運動習慣と食習慣改善の併用による減量効果

 メタボリックシンドロームの目安である内臓脂肪面積も同じように運動・食習慣改善群では62cm2減り、血圧、LDLコレステロール、血糖値のどれをとっても最も大きな効果がありました。

 こうした結果から、私たちの減量指導では、最初の1か月から3か月間は、「1に食事管理、2、3がなくて、4にしっかり運動。そして禁煙」を目標に、食事はごはんを中心としたバランスのよい日本型食生活を勧めています。運動をしたくないならば、最初はしなくてもよいという考え方です。食習慣改善によって体重が3sでも減ると、膝、腰への負担が大幅に軽くなり、ウォーキングなども楽になります。

 まず、食事の管理ではっきりとした成果が得られたら、「運動」という次のステップに進む。そこでさらに減量が進めば、運動量を増やそうとする心理が働きます。この“自己効力感”が、自身の食行動や生活全般にまで好影響を及ぼすことは間違いありません。


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