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東京医科歯科大学 大学院 健康推進歯学分野 教授 川口陽子 研究協力者:品田佳世子、有明幹子、阿部智、杉浦剛 |
小学生の歯科保健状況と日常の生活習慣や食生活がどのように関連しているのかを検討するための基礎調査として、本研究を行った。対象は、東京都台東区内の某公立小学校の全児童(49名)である。歯科健診および質問票による生活調査を行ったところ、朝食にごはんを食べている児童は、夜寝る前の歯磨き習慣があり、歯垢の付着が少なく、甘味飲料の摂取も少ないなど比較的良い歯科保健状況や生活習慣を示す傾向が認められた。 |
全身の健康状態と生活習慣、食生活との関わりについては、糖尿病などの生活習慣病に代表されるように、様々な研究が行われている。小児においては、う蝕と間食や甘味飲料などの砂糖の摂取との関係は明らかにされているが、全身的な健康状態や生活習慣、特に主食である“ごはん”を中心とした基本的食生活との関連性を調査分析した報告は少ない。また、偏食、欠食、軟性食品の摂取傾向が全身状態のみならず、う蝕や歯肉、顎の発育や歯列不正にも影響を及ぼすと考えられているが、これらに関する学術的な研究報告は少ない。今回我々は、小規模校において、小学生の口腔内の状態と生活習慣、特に“ごはん”を中心とした基本的食生活に関する基礎調査を行い、その関連性について検討したので報告する。 |
(1)対象 | |||||
調査した公立小学校は、東京都江東区南部のJR浅草橋駅を中心とした古くからの商業地域に位置している。近年は若い世代が職業をかえ地元から離れること、また少子化が進んだことで児童数が年々減少し、現在全校児童数が65名の小規模な小学校である。3世代が同居している家庭が多く、ほとんどの児童が在宅時には家族の誰かと時間をともに過ごしていた。学校においては、養護教諭が中心となり給食後に歯磨きタイムがとられ8〜9割の児童が自主的に磨いており、希望者には歯垢の染め出しを行い点検が行われていた。 この小学校の全児童を対象に歯科健診および生活習慣と食生活に関する質問票調査を行った。年齢別対象者数は6歳:3名、7歳:7名、8歳:5名、9歳:8名、10歳:6名、11歳:18名、12歳:2名の計49名であった。 |
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(2)方法 |
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(3)分析 |
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(1)歯科保健状況 | ||||||||||||||||||||||
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(2)生活習慣、食生活について |
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朝食を欠食している児童は、低学年に2名(全体の4.0%)認められた。朝食を食べている児童についてみると“ごはんをたべている”とした児童は、低学年で11名(47.8%), 高学年で13名 (50.0%), 全児童においては24名 (50.0%)であり、年齢による差は認められなかった。また、他の質問項目においても、年齢による差をは認められなかった。家族といっしょに食事をとる者が95.9%、おいしく食べることができる者が95.9%、 寝る前に歯磨きをする者は85.7%であった。また、89.8%がよく眠ることができ、一人を除くすべての児童が毎日楽しくすごすことができると回答していた。 |
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(3)朝食における“ごはん食”と他の調査項目との関連(図1) |
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“朝食をたべている”と回答した児童において、朝食内容を“ごはん”と“その他”の群に分け、それに欠食者の群を加え、口腔内の健康状態、その他の生活習慣や食生活などの調査項目との関連性を検討してみた(図1)。なお、各項目において3群間に有意な差は認められなかったが、以下の4項目に関しては、朝食の摂取状況により、違いが認められる傾向が示唆された。
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今回調査対象とした児童は、低学年(6〜9歳)および高学年(10〜12歳)ともにDT、FT、DFTが平成11年歯科疾患実態調査の同年代の全国平均より低く、また歯肉炎のある割合も低かった。これらは、養護教諭を通して日常より実践されている健康教育の普及に負うところが大きいと思われた。 一方、生活習慣と食生活については、対象児童のうち朝食に“ごはんをたべている”とした児童が、全体の約半数であった。年齢、口腔保健状態や他の質問との関連で有意差が認められた項目はなかったが、いくつかの傾向がみられた。これらの結果は、生活習慣なかでも食生活が、児童の健康や生活に影響していることを示唆している。特に朝食に“ごはんをたべている”児童に“食事を一人で食べている”“食事がおいしくない”と答えた者が少なかったことは、今回の対象児童の多くが3世代の家族構成であり、家族の誰かが児童の食事に配慮し、“食”を通しての教育が自然になされていることがうかがえた。“ごはん(米飯)”を単独で問題に取り上げるだけでなく、栄養学な面はもちろんそれに伴う主菜や副菜、あるいは食卓を囲んでの心と身体との健康を育む家庭環境全体を考えることが大切であると思われた。 一般に米飯を主食に汁物、魚などの主菜、野菜や豆などの副菜を2〜3品という日本型の食事が良いとされる理由に、たんぱく質:脂質:炭水化物の比率が適当に保たれ、野菜の摂取についても種類や量が多くなることがあげられる。社会の変遷とともに食材は多少変わりつつあるが、その基本は“ごはんをたべる”ことにより守られていると考えられる。例えば、今回の質問でとりあげたう蝕誘発性の高い甘味飲料などは、パン食では食事とともに摂ることは、さほど抵抗は感じないものの、米飯を主食にした場合は同じ食卓にこれらの飲み物が並ぶことに違和感を覚えるのではないだろうか。また、Tsay1)、柳沢ら2)は、それぞれに食事を“おいしく”“たのしく”摂ることにより食欲が増すこと、消化液の分泌もよくなり消化も効率よく行われることを述べている。また竹内3)、鈴木4)は、その粒状という性状より米飯(米)は他の穀類と比較し嚥下までの咀嚼回数が多いとしている。これらのことを口腔の健康と結びつけて考えてみると、咀嚼することにより唾液の分泌量が増加し、唾液の緩衝能、自浄作用、抗菌的作用、口腔内に適切な湿潤を保たせる等の作用を助長する可能性も推測され,今後、これらに関する調査も必要と考えられた。 |
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制作 全国米穀協会 (National Rice Association)
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