ごはん食に関する医学的 栄養学的研究調査結果
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東京医科歯科大学 大学院 健康推進歯学分野 教授 川口陽子
研究協力者:品田佳世子有明幹子阿部智杉浦剛


要約

歯科保健状況と食生活、特に米やごはん食との関連について述べている歯科関連の学術文献25編を検索し、その中の原著論文16編の内容について検討を行った。年齢、歯牙の有無、義歯の使用などと関連させて、食品の嗜好を尋ねる項目の中に、ごはんという項目が入れられている場合が多かったが、ごはんだけを取り上げて歯科との関連性を検討した論文はほとんどなかった。また、ごはんを利用して咀嚼能力機能を評価することは、その調理形態や多様性から咀嚼機能に応じたものを提供できる利点があり、望ましい方法であると考えられた。今後、歯科領域においては、咀嚼機能だけでなく、唾液分泌機能などとの関連性も含め、米やごはん食と口腔や全身の健康との関連を調査していく研究が必要と思われた。

研究目的

口腔は食物摂取の入り口にある器官である。口腔の二大疾患であるう蝕や歯周病によって歯が欠損すると、食物を細かく咀嚼できなくなるため摂取食品に制限が生じ、周囲の人と一緒に食事や会話を楽しむことができなくなる場合も多い。このように、歯科疾患が原因で歯や口腔の機能に障害が生じると、私達の普段の食生活は大きく影響を受ける。

現在、歯科領域においては「高齢になっても歯の喪失が10歯以下であれば食生活に大きな支障を生じない」という研究結果に基づき、生涯にわたり自分の歯を20歯以上保って健全な咀嚼能力を維持し、健やかで楽しい生活を過ごそうという「8020運動」が提唱・推進されている。
平成12年3月に、厚生省がまとめた「21世紀における国民健康づくり運動」(略称:健康日本21)において、今後、我が国が取り組まなければならない疾患として「がんを減らす」、「脳卒中を減らす」、「心臓病を減らす」、「自殺を減らす」と並んで、「歯の喪失を減らす」が取り上げられ、2010年までに達成すべき「歯の健康」の目標値が具体的に提言された(表1)。

歯の健康と食生活・食行動との関連について、これまで多くの基礎・臨床・疫学研究が行われ、う蝕と砂糖の関連性が明らかにされてきた。また、近年では、歯を喪失した高齢者の摂食嚥下問題がクローズアップされている。しかし、歯科疾患および口腔機能と米およびごはん食との関連に言及した食生活や食行動の報告は少ない。

そこで、過去15年間に発表された歯科関連の学術文献をレビューして、歯科保健状況と食生活、特に米やごはん食に関して、これまでにどのような研究が行われてきたかを明らかにすることを目的として、本研究を実施した。

研究方法

医学中央雑誌刊行会が国内で発行している医学及びその関連領域の定期刊行物を幅広く収集し、各文献毎に書誌事項を収録、さらにマニュアルインデクシングによるキーワードの付与、抄録の作成などの編集作業を行って作成している二次資料データベース「医学中央雑誌基本データベース」から作成した「医中誌Web」「医中誌パーソナルWeb」を利用して、文献検索を行った。対象期間は1987年1月から2001年3月12日までとした。また、大学・学協会・研究所・病院などから発行されている雑誌、営業誌、学会等の会議録、講演集、公共資料などから、歯学雑誌を検索対象に選んだ。検索のキーワードとしては、1「ごはん」、2「栄養」+「米」、3「食事」+「米」、4「食生活」+「栄養」、5「食生活」+「米」、6「粥食」、7「嚥下」+「米」、8「咀嚼」+「米」を用いた。重複しているもの、明らかに内容が異なるものは除外した。そして、検索された論文の内容について分析を行った。

結果
キーワードを用いた文献検索の結果、食生活特に米およびごはん食と関連した歯科領域の学術論文は25編あった。その一覧表を資料1に示す。原著論文(16編)は、雑誌名、題名、著者名、所属、抄録を記載し、会議録(8編)および総説(1編)は、雑誌名、題名、著者名、所属を記載した。また、原著論文16編の内容を検討し、記載されていた米およびごはん食と歯科との関連を、以下の3項目に分けてまとめた。

(1)食品の嗜好、摂取回数について
 
1 小学生を対象とした食習慣調査では、主食の嗜好状況として学年が上がるとともに、ごはんを“一番好き”と解答した児童が増加する傾向にあった(原著論文No.13)。
2 成人女性の口腔内状況と食生活の関連性を調査したところ、70歳以上の高齢者は、若い年齢層の成人と比較してごはんの摂取頻度が高く、パンの摂取頻度が低かった(原著論文No. 9)。
3 20〜30歳代の成人若年者層のごはんの摂取頻度は他の年齢群より有意に低く、“米ばなれ”と言われる傾向がみられた(原著論文No. 4)。
4 老年者を対象とした食生活調査では、主食として、ごはんや麺類の嗜好が高かった。男女ともに60%以上がごはん類を好み、特に赤飯や寿司に人気があった。パン類を“好き”と答えた割合は低く、30%であった(原著論文No. 7)。

(2)口腔内状況とごはんとの関連
 
1 高齢者では喪失歯数が増加し、喪失歯数が多くなると、ごはんの摂取回数が増加し、油脂類や緑黄色野菜の摂取頻度は減少する傾向が認められた。また、朝食を食べている人は、欠食している者より、ごはんの摂取頻度が高く、ごはんの摂取頻度を説明する変数として喪失歯数と朝食習慣が選択された(原著論文No. 9)。
2 自分の歯がある有歯顎者群と、無歯顎である全部床義歯装着者群に分けて、食品の摂取頻度をみると、各年代群すべてにおいて、ごはんの摂取頻度は極めて高かった。有歯顎者群の20〜30歳代、40〜60歳代、70〜80歳代の3群間で、全食品に対するごはんの摂取頻度の割合を比較したところ、高齢群ほどごはんの摂取頻度が高く、1%の危険率で有意差が認められた。70〜80歳代では、有歯顎者群と全部床義歯装着者群の間にも有意差が認められ、有歯顎者群の方がごはんの摂取頻度は高かった(原著論文No. 4)。

(3)ごはんと咀嚼との関連
 
1 老年者の咀嚼機能の問題点をスクリーニングするために、ごはんを含む10品目の指標食品の咀嚼能力を数量化した咀嚼能力指数スケールが考案された(原著論文No. 8)。
2 粒状食品である米飯の咀嚼では、飯粒の粉砕度に加え、米飯の持つ物性の凝集性と付着性が、嚥下までの咀嚼回数や咀嚼時間に大きな影響を与えていた(原著論文No. 12)。
3 日本人の主食であり、嗜好性、摂取頻度とも年齢を問わず高い米飯は、浸水時間12時間以内、保温時間6時間以内では非常に安定している食品である。また、米飯は、粒状食品でありながら付着性が高く、咬断を行わないため、食塊形成が容易にできる咀嚼しやすい食品である。さらに、摂食から嚥下までの下顎運動ならびに舌運動が安定しており、その再現性が高く、個人差が小さいので、咀嚼機能評価を行うための咀嚼機能被験食品として適している。(原著論文No. 16)。
考察

食生活、特に米およびごはん食と歯科に関する学術論文の数は非常に少なかった。年齢、歯牙の有無、義歯の使用などと関連させて、食品の嗜好を尋ねる項目の中に、ごはんという項目が入れられている場合が多かったが、ごはんだけを取り上げて歯科との関連性を検討した論文はほとんどなかった。

歯や口腔は咀嚼器官であるため、歯科保健状況が悪いと食物摂取が困難になり、食品の選択に偏りが生じ、ひいては健康にも影響がでると考えられる。しかし、日常の食生活は個人の嗜好が大きく関与しているので、単純に歯牙の状況と一つの食品(例:ごはん)との関連を述べることは不可能である。したがって、食生活全体を考えて、ごはんを多く食べるような食生活を送っている人とそうでない人に分けて、栄養バランスをみながら、歯科保健状況や他の生活習慣などを比較してみていくことが必要であると思われた。

ごはんは日本人の主食であり、また、喪失歯数が多くなり、咀嚼機能が低下しやすい高齢者は、ごはんを好む割合が高いことが報告されていた。ごはんは加熱などによりテクスチャーに変化をつけることができ、その調理形態や多様性から咀嚼機能に応じたものを提供できる利点もあり、ごはんを利用して咀嚼能力機能を評価することは望ましい方法であると考えられた。

今後、歯科領域においては、咀嚼機能だけでなく、唾液分泌機能などとの関連性も含め、米やごはん食と口腔や全身の健康との関連を調査していく研究が必要と思われた。


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